Green Tea
!注意
オズワルド×ジェネラル小ネタ。
直接的な描写はありませんがリバな二人です。
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オズワルドの好物はチョコレートである。
初めて知ったときは意外だったが、噛みしめるようにしてチョコレートを摘まむ姿は微笑ましく、案外似合っていた。
本人はあまり口に出さないが、チョコレートだけでなくチョコレート味も好きらしい。
私には口に入れるものを好きか嫌いかで判別する繊細な嗜好は備わっていない。
けれど、彼は細やかなうえに気配り上手でもあったから特に好む味のチョコレートを見つけると必ず私とのティータイムにも用意した。
お蔭で紅茶の味くらいしかきちんと判別出来ていなかった舌がチョコレート類だけに肥えて、最近は味の違いも分かるようになってきている。
好みと言う程のものはまだないが、オズワルドと共に食べるものが一番美味に感じた。
それは、自分が美味と感じたものをわざわざ揃えてくれる彼の心遣いが何よりの隠し味なのだと、知っていたからだ。
だから、彼が迷いなく緑の葉が描かれたカップを手にしたとき、不躾なことにその動作だけで首を捻ってしまったのだ。
「閣下、どうなさいましたか?」
「……いや」
何がどういった経緯でそうなったかは知らないが、会社からアイスを手土産に持ち帰ったオズワルドは手を止めて問いかけてくる。
用意してある銀のスプーンは二つ、疑問を解消できないながらもオズワルドは保冷剤の詰まった箱を傾けて、どれにしますか?と色とりどりのカップを私に選ばせる。
王道のバニラに、ピンクのストロベリー、ミルククラシックとラムレーズン、それにオズワルドが選ばなかったトリュフショコラ。
「一人六つは絶対だ、と言って憚らないので貰ってきましたが、今度はどこと提携したのでしょうね」
「………君でも分からないのか?」
「調べればわかりますが、私がどうこう口を挟む問題でもありませんから」
此処まで来て、今さら何を言っても。と若干の諦めと絶大な信頼を隠す言葉で締めくくるオズワルドを横目にトリュフショコラを選び取る。
それ以外では味の違いがよくわからないのだから仕方ない。
オズワルドは箱の蓋を閉めて、冷蔵庫へとアイスの群れを仕舞い込み、温かい紅茶を用意してリビングへ戻ってきた。
隙もソツもない彼からソーサーごと受け取ると、当然のように隣へと腰を下ろす。
そんな動作が当たり前の関係になって、随分と久しい。
「クーラさんでも呼びますか、と提案してみれば良かったですかね。それでも女性の方々は多めに持ち帰ったようですが」
「そういえば、カレー空輸と提携した時も大量のカレーを持ち帰ったな」
思い出すように唇を撓めて笑えば、オズワルドも笑みを噛み殺してカップの蓋を開く。
冴えるような抹茶色が視界に入り、やはり内心の違和感から片目を歪めてしまった。
「……こちらの方が良かったですか?」
一口分掬ったオズワルドがゆっくりとスプーンを差し出してくると、慌てて首を振る。
誤解を掻き消すように己もトリュフショコラのカップを開くと、スプーンを表層へ差し込んだ。
「いいや、単に君は何時もこちらだろう。どういう心境の変化かと思ってしまっただけだ。気にしないでくれ」
パクリとアイスを口に運ぶと口腔に甘い味わいが広がる。
冷たいアイスが舌の上で溶けて、ほんのりとしたカカオの苦みがアクセントになっていた。
美味いとは思うが、それ以上にオズワルドの好みそうな味だと考えてしまう。
当のオズワルドはと言えば、掬ったアイスを舐めるように唇で削いで逡巡の様子を見せながら嚥下している。
薄い唇が銀色のスプーンにさかさまに映り込んで、無意識のうちに瞳を細めた。
考え事をする時の伏せがちの瞳は、サングラスに阻まれて明確に見えないだけにその奥を暴きたくなる。
チョコレートとは別の甘さが喉の奥、心臓の内側から染み出した気がして、小さく溜息を洩らした。
しかし、その溜息を取り繕うより早く、オズワルドがゆっくりと言い聞かせるように口を開く。
「閣下が食べられないので、せめて閣下の色だけでも。と思いまして」
「…………………は?」
意味が分からず、間抜けな声を返すとにっこりとしたアルカイックスマイルと対面する。
更に一口分掬った抹茶味を楽しみながら、オズワルドは揶揄めく含み笑いを漏らした。
「まぁ、比べものにならないほど閣下の方が甘いと思いますが」
鼓膜を揺らした言葉が脳を数度回って、ようやく言葉の意味を理解する。
けれど、その直接的な誘い文句に照れれば良いのか、はぐらかせば良いのか、判断し損ねて言葉は詰まったままだ。
せめて取り繕うと口を開くが、先手必勝始動コンボを決めたオズワルドに死角はない。
「………な…、君は…っ」
「閣下が嫌だと言うことを無理強いするつもりはありません」
涼しい顔で紅茶を啜る姿は正しく紳士然としている。
しかし、そんなことを言われて大人しくアイスを食べ続けられるほど野暮天ではない。
きっと外から見た今の私はさぞかし複雑な顔をしているだろう。
「そんなことのために…チョコレートを選ばなかったのか…?」
「……おや?」
意外そうに声を弾ませるオズワルドは非常に楽しそうだ。
まるで知らなかったのか、とでも言わんばかりの態度に僅かに構える。
しかし、言葉でからかうためだけにトリュフショコラを選ばなかったとするなら、彼は相当悪趣味だ。
(―――…いや、私を選んでくれた時点で、かなり悪趣味なのは知っていたが)
自虐と言うより純粋な感想を脳裏に描きながらも、オズワルドが小さく喉を揺らして笑うのに視線を引かれる。
笑う唇に緑のアイスを誘い込み、口を開くと満足そうに言葉を紡ぎながらアイスを食べた。
「私はチョコレートよりも、貴方が好きなんですよ」
当たり前のように告げられた言葉に、私もまだ若いな。と自覚しながら眉尻を下げて目頭に熱を走らせた。
その顔を見たオズワルドが更に楽しそうに笑う。此処まで含めてすべて彼の掌の上なのだろうか。
さすがに唸って頭を抱えるのは業腹で、口腔に残るチョコレートの余韻を嬲り、上体を傾けた。
「………閣下?」
疑問符を足して名前を呼ばれると耳が焼ける。
オズワルドの問いを無視して肩に手を掛け、引き寄せれば、気配を察知したのかオズワルドの瞳が伏せられた。
普段、サングラスの奥で輝く双眸が閉じられただけで心臓が跳ねるのは既に仕様だろう。
「……………、……私はアイスほど甘くないぞ」
チョコレート味と抹茶味を混ぜ合わせる直前、釘を刺すように伝えた。
しかし、言葉と同時に勢いよく引き寄せられたから、きちんと聞いていたかはわからない。
途中で放り出されたトリュフショコラとグリーンティーは緩やかに溶け始めている。
とろりとした深い黒と冴えた緑は、まるで熱に中てられた二人を象徴しているようだ。
きっと彼と味わうなら、チョコレートでなくても、甘く美味いのだろう。
そんなことを漠然と考えながら、ジェネラルはアイスよりも甘く溶かされていった。