Beloved Bastard
!注意
サイキカル→グスタフ(→ゲーニッツ)で小ネタ。
全員一方通行片思いで軽く諦め気味。
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大体、こいつを介抱するのは何度目だろう。
初めの内はそれでも嬉しくて数えていたが、此処最近は馬鹿らしくて数えていない。
「グスタフ、起きろ。家だぞ」
肩に担いだ家主に声を掛けても無反応なのは当たり前。
返事が出来ないほど酒に溺れるのも良くあること。
完璧でソツのない男を気取っているが、一枚皮を剥がせば案外脆い。
サイキカルは無遠慮にグスタフのスーツに手を突っ込んで鍵を開ける。
顔を寄せれば、それだけで倒れてしまいそうなほど濃い酒気が鼻についた。
グラスを一杯か二杯空けるだけのサイキカルと違い、グスタフの飲み方はそれこそ浴びるように、と言う方が正しい。
酔いにくい体質を無理やり回すのだ、相当な量が必要となる。
さすがに八荷とまではいかないが、グスタフが人外であると再認識させてくれるのには十分だった。
精算はグスタフが黒いカードを一枚出したので、金銭的な負荷は掛かっていないものの、最近は鼻からサイキカルが家まで運んでくれると信じて、飲み過ぎる傾向にあった。
どうして、そんな飲み方をするのか、理由を知っているサイキカルは形の良い眉を僅かに寄せる。
長身のグスタフを引っ張って寝室まで運ぶと、酒臭い男を寝台へ落とす。
小さく呻く声が聞こえたが、覚醒までは至らず、スーツもそのままに動かなくなった。
「………酒で何とか出来るとでも思っているのか、お前は」
落ちた横顔を見やりながら、溜息を洩らして、グスタフの手を取る。
指を包み込む革手袋を引っ張れば、傷の無い綺麗な素手が現れた。
それは酷く冷たく、爬虫類としての性と言うより、死体のようだった。
両手から手袋を奪うと、揃えてベッドサイドへ置いておく。
胸元からサルベージした携帯は電源ごと落とした。
「その程度でなんとかなるのだったら、私がやっているだろう。気付け、ウワバミ」
悪態を小声で囁いて瞳を細め、寝台に伸びるグスタフのネクタイに指を掛ける。
引けば簡単に崩れる水色の帯、こんな風に容易く解放出来ればどれだけ良いだろうか。
グスタフに絡みつくのは青い風だ、取り留めも無く、捕まえようも無い。
それでも、グスタフはいっそ献身的なまでに滑稽なまでに風に尽くそうとする。
そうして傷つき、サイキカルの元へと帰ってくるのだ。
ネクタイを解き、首元を寛げて、呼吸を楽にしてやるとグスタフの寝息が深いものになった。
首から鎖骨へのラインに黒髪が零れて酷くサイキカルを誘い、引き抜いたネクタイを床に捨てた。
起きる事も無いグスタフ相手に、出来る事と言えば、その程度の稚気を散らすことだった。
何をどうしても、グスタフは変わらないだろうし、自分自身にも変化があるとは思えない。
出口の無い不安定な関係性の上を綱渡りしながら、お互いに見果てぬ夢に恋焦がれている。
「諦めろ、此処が地獄だ」
投げやりに声を出すとグスタフの顔の隣に手をついて、整った顔を覗き込む。
何時もは纏う雰囲気と髭のお陰で年相応に見えるが、眠っていると自棄に子供じみて見えた。
瞳を細めながら、ゆっくりと上体を折ると暗い褐色の髪が視界の端を塞ぐ。
「―――……ん、」
傾斜に合わせて、サイキカルの唇が近づけば、酒で濡れたグスタフの唇が微かに戦慄いた。
微かな反応に、もしかして起きてしまうだろうか、と目を細める。
気配には人一倍聡いグスタフのことだ、泥酔していても気付くかもしれない。
しかし、目を覚ましてくれるなら逆に好都合かもしれないと杞憂を打ち消す。
無論、現実はそんなにも甘たるいものではないし、上手くいくわけもないと知っている。
何せ此処は地獄なのだ。
現に気配を察知し、震えた唇が紡ぐのはサイキカルの名前でも、制止の声でも無かった。
「……ゲーニッツ様…」
分かってる。夢に見るのすら、私ではないのだろう。
そんなことは、誰より良く分かっている。
どれ程辛い感情を抱えているかなど、自分以外に分かりようがない。
く、と結んだ唇に力を込めて、一瞬瞳を揺らしただけでグスタフの声に耐えた。
けれど、行動はか細く零れた声に阻まれ、吐息を唇にぶつけるだけで止まってしまう。
こうなるから酒に溺れたグスタフを介抱するのを役得だとは思わない、それでも誰にも譲りたくない。
案外、この感情を逆手にとって利用されているだけかもしれないが、別にそれでも構わなかった。
グスタフを詰れるほど、サイキカルも褒められた感情では動いていないのだ。
自虐的に唇を円弧に撓らせると、顔を持ち上げ、伏せた瞳の縁に浮かぶ輝きを静かに唇で吸う。
酒でも満ちない腹を彼の涙で癒やし、次がある事を願わずにはいられなかった。