Cookie&Cream
!注意
カリスマヨハン×涙目ヨハンで小ネタ。
甘々で涙目がすぐ泣きます。
別人格ですが同キャラカプが苦手な人は注意。
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ココアを入れたクッキーは焼くとその色に一層深みが増す。
オーブンから取り出したそれを、更なる加工をする前にクーラーに乗せて荒熱を取る。
味見と言わんばかりに一枚齧ると、ほろ苦いチョコレートの味が口に広がり、頬が緩んだ。
自分としてはもう少し甘い方が好みだが、十分に美味しい。
「うん。しっかり焼けてるな」
満足そうに微笑むと、次はカスタード・クリーム作りに取り掛かる。
まずはボウルに卵黄と砂糖、小麦粉、ミルクを入れてしっかりと混ぜ合わせる。
次に、網でこしながら小鍋へと流し入れ、弱火に掛ける。
この時に強火でやるのは邪道だ。早くは出来るだろうが、せっかくのクリームが焦げてしまう。
木ベラで静かに混ぜていると、熱に反応してクリームが固まってくる。
この後、冷やす段階でもクリームは固くなるから調節が重要だ。
今回はクッキーに挟む予定だから、多少固いほうがやりやすい。
「……こんなものかな?」
程よい固さになったらヴァニラ・エッセンスを加えて、小鍋をコンロから下ろす。
冷蔵庫で暫く寝かせると風味も舌触りも良くなるので、荒熱が取れるまではひとまず放置の方向で。
その間に、ホイップ・クリームも用意する。
さっき使ったボウルを軽く洗い、水気をしっかりとふき取ったら生クリームを開ける。
カスタード・クリームが存外甘く出来たから、こちらは甘さを抑えて作る。
グラニュー糖を生クリームの海に落としたら、空気を含ませるように泡立て器でかき混ぜる。
泡立て器とボウルが当る音が、静かなキッチンへと響く。
「―――…何をしてるんだ、お前は」
「うわ!」
鼻歌を歌わんばかりに機嫌良く泡立て器を操っていると、何の気配もなく背後から声を掛けられた。
抱えるようにして持っていたボウルを危うく落としそうになり、慌ててしっかりと持ち直す。
跳ねる心臓を落ち着けるように息を吐きながら、振り返れば、呆れたような視線と目が合った。
「お、おかえり」
「甘ったるい匂いがしてると思ったら、またか」
「う…いいじゃないか。好きなんだから…」
出迎えの挨拶にも何の反応もなく、うんざりと言い放たれて僅かに怯む。
キッチンには甘い香りが充満して甘味好きでも、少々厳しい空気ではある。
その自覚がある分、どうしても語尾が弱くなってしまう。
無論、そんな弱さを見逃す相手ではなく、酷く尊大に鼻で笑われた。
それが嫌に様になっていて、少々どころではないくらいに忌々しい。
「帰ってきた途端に甘い匂いを嗅がされる私の身にもなれ」
「お、お前だって食べるじゃないか!」
異議あり!と言わんばかりに正論を振りかざせば、つい、と赤い瞳が細くなる。
同じ龍の瞳孔が、冷めきった視線を向けてきて思わず肩が跳ねた。
「一人じゃ食いきれん量を何処かの地味が作るからな」
「地味じゃない!!」
条件反射のようにそう叫ぶと、視界が涙で歪んでいく。
顔が耳まで熱くなり、口を真一文字に引き結んで涙を堪えると、盛大な溜息が耳を打った。
「―――付き合いきれんな。部屋に戻る」
「うぅ…帰ってきた途端にこれだよ……」
視線を床に捨てると、堪えきれなくなった涙が頬を伝った。
確かに、二人分を考慮して作ったのは認めるし、甘いものが得意でないことも知っている。
それでもお菓子を作れば絶対に手を出してくるのはあちらの方なのだ。
クッキーもホイップ・クリームも甘さを抑えたのは、今日もきっと手を出すだろうと考えたからこその配慮だというのに、この仕打ちは何なんだ。
僅かに解けた赤い髪が頬に当ると、細い息が零れてしまう。
自分が酷く馬鹿らしいことをしている気がして、程よく泡立ったホイップ・クリームを更に泡立てた。
まるで八つ当たりのように腕を動かしていると、くん、と一つに結んだ髪が後ろから緩く引っ張られる。
摘まれた髪を取り返すように身を捩ると、逃げようもない引力で髪を引かれ、顎が反る。
思わず倒れそうになるのも、背後には頑丈な身体があって引っ繰り返りはしなかったが、赤い瞳に鋭い光が宿る。
「…ッ、なん―――」
上下反転のまま睨みつければ、そのまま何の前触れなく唇が合わさる。
相手の赤い顎髭や、その下の喉仏が視界を埋めつくし、無理な体勢で腰が痛んだ。
さすがにこの体勢で口腔を荒らされることはなかったが、心臓が数秒止まったのは確実だ。
手に持ったボウルと泡立て器を落とさなかったのは奇跡に近い。
数秒間心臓を止めた口付けは、小さなリップノイズを挟んで唐突に終わる。
離れていく身体を呆けるように眺めていると、両肩に手を添えられて体勢を戻された。
あのまま離れられたら絶対に引っ繰り返っていただろうな、と場違いな思考が頭をよぎる。
「珈琲をつけたら、食ってやらんこともない」
両肩に添えられた手は離れ、キッチンの扉が閉まる音が小さく響く。
そろり、と背後を伺えば、既に誰もいない。
傍若無人で自分勝手で我侭な物言いに腹が立ち、目に力が篭る。
同時に、胸に灯るのは嬉しさや愛しさといった温かいものばかりで、頬に熱が集まった。
「―――み、ミルクと砂糖、入れてやる……ッ!」
緩やかに頬に集まる熱に翻弄されながら、珈琲とは名ばかりの飲み物を入れることを誓うと、漸く荒熱の取れたクッキーに甘いクリームを絡めたのだった。