青のカーテン
!注意
ゲーニッツ×カリスマヨハンで節電小話。
ゲニさんがヘタレだったりしますが、節電は無理せず計画的に。
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しっとりと汗ばんだ、肌。
燃えるような赤髪は首筋に沿って張り付き、無骨な手が持て余すようにそれを掻き揚げた。
熱の篭った瞳は潤み、薄く開いた唇からは吐息が零れる。
切なげな吐息ごと、その唇に噛み付きたいと心中で欲の獣が騒ぎ出す。
思わず乞うように手を伸ばしそうになる自身を諌め、ゲーニッツは小さく首を振った。
「なぁ、ゲーニッツ…」
目の毒にしかならないヨハンを視界から外して、今まで眺めていた聖書に再び視線を落とす。
けれど、字体の上を目が滑るばかりか、あらゆる元凶が気だるげな猫なで声を囁いてくる。
甘えを孕んだ低音はするりとゲーニッツの耳穴に入り込み、脳髄と理性を盛大に揺さぶることに成功した。
悪魔の声に等しいそれに聖書を支える無骨な指に必要以上の力を込めて耐える。
「―――何ですか?」
呼びかけられただけで煽られるなど、笑い話にもならない。
覚えたての若造でもあるまいに、そこまでがっつくほどゲーニッツは飢えてない…はずだ。
確かにヨハンは甘美なご馳走ではあるが、昼日中から盛るつもりはなかった。
ゲーニッツは意識がヨハンへと向いてしまっている現状を否定するように、頑なに聖書へと視線を注ぐ。
そんな牧師の様子に、傲慢な黒龍は密やかに喉を鳴らした。
薄く汗の浮いた喉仏が緩やかに上下してはゲーニッツの視線を誘う。
「ぅん? 私が何を所望しているか分からんか?」
お前ともあろう者が?と、愉快そうに察しの悪いゲーニッツを唆す。
これ見よがしに長い足を組み変える仕草は、支配者然としたヨハンにこの上なく似合っていた。
その言葉と仕草に、ぴくり、とゲーニッツの眉が跳ねる。
自らも一族の導き手として君臨しているゲーニッツにとって、己より高位な存在はオロチだけと言っていい。
故に、組織された集団においての高位者…支配者、統治者、施政者といった存在を見ると、血が騒ぐ。
思い上がった存在に、己の矮小さを突きつけ、取るに足らない自尊心をその身体もろとも踏みにじりたくなるのだ。
ヨハンはそんなゲーニッツの本性の凶暴さを理解していながら、時折こうして戯れのようにその片鱗を覗かせる。
本当に性質が悪い、と心中で何度目かも分からない愚痴を零し、緩く首を振った。
「ええ、分かりませんね。何が―――」
続く言葉は伸びてきた腕が首筋に回ったことで途切れる。
あれほど頑なに視線を外していた姿が、一瞬で目の前に現れた。
ゲーニッツを誘って止まない唇は弧を描き、艶を含んだ笑みを刻んでいる。
声と一緒に動きを凍結させたゲーニッツの手から聖書を奪うと、ヨハンはそれを放り捨てた。
蔵書がフローリングに墜落する音を遠くで聞き、装丁が傷んでなければいいんですが。と思考を他所へ飛ばそうと試みる。
「嘘は良くないな、ゲーニッツ。お前は私が何を欲しているか、理解しているのに」
ゲーニッツの視界を全て独占したヨハンは、同性ですら見惚れるような笑みを浮かべてみせた。
どうすればより効率的にゲーニッツの理性を壊せるかなど、悩む必要もない。ヨハンはその道の第一人者だと自負している。
そしてその自負が決して驕りでない証拠に、ダラリと下がっていたゲーニッツの腕がヨハンの腰へと回った。
ヨハンは腰へと回った手を片方だけ掬いあげ、自らの指と絡めて眼前へと移動させた。
しっとりとしたヨハンの肌の感触に、ゲーニッツの目の色が深みを増す。
正直な反応に、ヨハンは満足げな吐息を漏らし、持ち上げた指先へと唇を寄せた。
無骨な指に唇を乗せ、節へと舌を這わせる。
視線は交わらせたまま、これ見よがしに舌を出し、肌の上で唾液を捏ねた。
視覚から及ぼされる淫靡な空気に、ゲーニッツの理性がジリジリと灼けていく。
すぐにでもヨハンの手を振り払わねば、このままではいけない、と、まだ正常な部分が警鐘を鳴らすも、
目の前の黒龍はその鐘の音を嘲笑ひとつで吹き飛ばす。
「―――この、指で…………私を満足させてみろ」
ぴちゃり、と、まるで猫がじゃれつくようにわざとらしい音を奏で、止めのように歯を立てた。
ゲーニッツはヨハンに心中であらゆる罵詈雑言を並べ立てながら、捕らえられていた手を奪還した。
「……あぁ、もう…ッ分かりました、分かりましたよ! やればいいんでしょう、やれば!!」
ゲーニッツは言うが早いか、指を鳴らして見せた。
途端、滞っていた室内の空気が流れ、柔和な風がヨハンを包む。
ヨハンはようやっと得た涼に目を細め、ゲーニッツへと寄せていた身体を離してソファへと寝転がった。
しなやかな肢体をのびのびと伸ばし、肌を舐める風にまどろむヨハンに、ゲーニッツは胡乱げな視線を向けた。
「冷房をつければいいでしょう」
「何を言っているゲーニッツ。今年の夏は節電なんだぞ?」
「邪教の教主が何を抜け抜けと…ッ」
「地球温暖化に歯止めも掛かるんだ。お前にとっても悪い話ではなかろう?」
口では何と言っていようと、風を止めようとしないゲーニッツにヨハンは満足げに笑みを深めた。
オロチ一族の導き手たるゲーニッツを扇風機代わりに使うことに、心は全く痛まない。むしろ、利用しない手はないだろうとすら思える。
ゲーニッツの腹心たる黒衣のワイヤー使いに知られたら開幕十割は免れないだろうが、幸いココにはゲーニッツとヨハンだけだ。咎められる心配もない。
ヨハンは自然風を頬に感じながらゆっくりと目を閉じた。
閉じていく視界で、ゲーニッツが酷く不機嫌そうな顔をしたのが見え、小さく噴出す。
散々煽られた挙句に放置されるのだ、それは不機嫌にもなるだろう。
ヨハンは束の間の休息を得るために意識を四散させながら、笑み交じりに呟いた。
「起きたら…ご褒美をやらんでもないぞ」
抗議なのか八つ当たりなのか、一瞬強まった風は窓を室内から揺らし、ヨハンの笑みを誘ったのだった。