兄弟は神に仕えていた。
ある時神の目が空に向いた時、兄は神の元から立ち去ろうとした。
兄は神の花のために毎朝と毎夜、水差しを運ぶのが嫌になったのだ。
しかし神は空を見ながら、兄の逃亡に気付いていた。
引き止めようとした弟は、何度も兄を呼んだ。
兄は戻って来なかった。
労働を免れていた幼い弟を、兄はあまりよく思っていなかったのだ。
最初の「砂男」は、こうして乾いた地上に降り立った―――――
「これが『乾きの大地』の創世記です」
ガルルより託された宇宙艇にて、ケロロ以下小隊員は「出品者」追跡の旅路にある。
ノルルと対峙したドロロは、彼女を地球へ伴う事を主張した。
地球に残されているというメモリーボール解読の装置とやらと、オルルの負の遺産について、彼女を切り離して考えるのは間違った事のように思えた。
結局彼女は腕に形ばかりの拘束と、湿性環境下での防護服を着け、小隊と共に地球へ向かっている。
「私にはこの『兄』が兄に思えてなりません」
ノルルの語った神話は豊かな神の土地から旅立ち、地上の過酷な自然の中で生きなければならなくなった兄のストーリーへと続く。
「その後そのお兄様はどうなるんですか?」
モアが尋ねる。
「ええ、兄はそうなって初めて神の楽園がいかに素晴しい場所であったか気付き、神のための毎日の務めが労働などとは程遠いものであった事に気付きます。それで、兄は祈りを捧げるための碑を建てます。神は兄を許し、友となる人を作って地上へ降ろすのです」
それが地上の最初の女だった。
「その後『乾きの大地』には沢山の人々が生まれます」
「どこにでもあるんですねぇ、創世記の神話。ケロンにもありますよぅ」
語りたくてたまらなそうなタママによって、ケロンの神話へと話が逸れそうになり、慌ててドロロは口を挟む。
「それで、残された弟はどうなったでござるか?」
「はい、弟は兄がいなくなった後も、敬虔に神に仕えます。そして兄を思い、過酷な自然の中で生きなければならなくなった兄に、祈りを捧げながら一生を終えます」
しかし、神話はその後もまるで星の運命を予言するかのように、陰鬱な展開を繰り返した。
始祖である兄の建てた碑は、子孫の起こした戦争によって壊され、やがて天からの罰が降りる。
汗みどろで耕された緑の大地はひび割れ、砂に均された―――――
ドロロの中で、弟の顔が甦る。
地球へ降り立ち、心の故郷をそこに定めながら、ドロロの中には弟への負い目が常にあった。
その機会が何度巡ろうが、対峙する事を尻込みする程、思いは根深かった。
もしこの神話の「兄」が弟と話す機会を得たらどうするだろう。
むしろ弟の方は。
兄は恥じ、後悔するだけでいい。
しかし弟は許さなければならない。
それはおそらく独りで内省するより難しい事だろう。
「どうなさったんですか? ドロロさん」
ノルルの言葉に我に返る。
「……いや、拙者、色んな事を考えていたでござる」
自分が関わった色々な人々。
ケロロ、ギロロ、タママ、そしてクルル。
母星の家族、小雪、地球で知り合った沢山の―――――
「拙者、色々な人々に許されて、今を生きているのだと言う事を」
それはかつて自分の手を他人の血で汚してきた経歴を持つドロロには、大きく矛盾のある言葉かも知れない。
しかし、自らを恥じ、後悔し続けるだけという閉じた選択は、今のドロロにとって奪って来た命に対し、最も安易な甘えに感じられるのであった。
「どーしちゃったですかぁ? 兵長さん突然内省的になっちゃって?」
「ってゆーか、相互扶助?」
気がつくと好奇心剥き出しの視線があった。
思わず口に出してしまったものの、確かにこの場では奇異に聞こえる青臭い台詞だったかも知れない。
「……いや、その、な、何でも…… わ、わすれてほしいで、ござ……」
「どうしてですか? すごく素敵な言葉だと思いますけど。ってゆーか、安心立命?」
何となく吐いた言葉に、周囲から畳み掛けるように反応を寄越され、ドロロは赤面し面喰らう。
しかし今はこの暖かい視線がありがたかった。
必ず目的は達成する。
『乾きの大地』を守り、「出品者」を追い詰め、クルルを救出し、メモリーボールの謎を解き、全てを終わりにするのだ。
ドロロの中で決心は希望、そして確信となる。
そして、全てが終わったら、どれだけ時間が掛かってもいい。ケロンにいる弟と対話し、和解するのだ。
ドロロの手元には、代理人から預かった手紙がまだ封を切られないままに存在する。
オルル殿がノルル殿に何も言えないまま姿を消した理由が、今の拙者には痛い程解るでござるよ
しかしオルル殿、貴殿が遺したメモリーボール、それが全てであろう事は
「何ですと! は、了解であります! ウルトラスーパーデラックスGJでありますよガルル中尉!」
回想は突如片隅で上がったケロロの声で中断された。
彼はずっと通信回線を開いたまま、カウントされる時の音を聞きながら、いつにない厳しい表情でガルルからのコンタクトを待っていた。
説明の必要はない。その表情と歓喜の叫びで何が起こったかが、一瞬で一同に伝わる。
この場に居た全員がずっと気掛かりにしていた、「出品者」の爆破装置が解除されたのだ。
思えば『乾きの大地』についての話を持ち出したのは、時限が近付くにつれて動揺と緊張の度合いを深めるノルルと、自分達の気持ちを他へ逸らせる為でもあった。
「ハァーッ、我輩もう気が気じゃなかったでありますー。そりゃいくらガルル小隊の実力を知ってるとはいえ、万が一って事があるしー!」
「すごいですぅ! さすがですぅ! よかったですねぇ軍曹さん!」
「ってゆーか、危機一髪?」
「よかったでござるな、ノルル殿!」
「……はい、本当に」
星は守られた。
この情報は「出品者」の元にも届いている。
勝ちを確信していたであろう「出品者」は、自らの手駒が挫かれた事を知り、次の手を用意してくるだろう。
しかし、傍にはクルルがいる。
奇妙な話だとは思いつつ、敵の掌中にありながら、どこか彼という特異な存在は信頼感を持続する。
「まるで敵の腹の中に凶悪なウィルスを放ってあるみたいでありますな」
「人質にしちゃったりしたら始終一緒にいなきゃなんないし、ストレス溜りそうですぅ」
「ってゆーか、出品者さん疲労困憊?」
それは故意の発言であったのかも知れない。
しかし、小隊には普段の空気が戻りつつあった。
クルルを救出し、ギロロと合流し、早く全員が揃えばいい。
それは改めて感じる隊の不思議な求心力だった。
自分はこの隊に無くてはならない存在となれただろうか。
いや、そうなる為に必要な事はまだある。
ドロロは液晶に表示された地球への距離と残り時間を確かめる。
地球『トリニティサイト』。
その地下奥深く、数十年前のケロン宇宙探査艇の内部では異変が起きていた。
―――――珍客が来た。
鮮明に、まるで全ての霧が晴れたようなクリアな言葉が、頭の中へ直接侵入し、駆け巡った後に拡散する。
「何!?」
「誰だ!」
ギロロはその奇妙な感覚を確認しようと、過ぎたばかりの言葉を反芻する。
―――――あなたはケロン人、そしてこっちは地球人か。
「……どこにいる! 姿を見せろ!」
どこかに隠れ、自分達を伺っているかのような「言葉」の主に、ギロロは苛立つ。
しかし返事の代わりに、再び一方的な干渉がやって来た。
―――――あなたは、俺の懐かしい人物を知っているらしい。
―――――そうか、彼はそんな風に成長したのか。
「な、何だ! 一体誰の事を言っている!?」
思わず叫ぶ。しかし目の前の夏美は怪訝そうな顔でギロロを見ていた。
今現在の干渉は、ギロロにのみ働きかけられている様だった。
―――――俺の恩人、そして俺の心残りそのものだ。
―――――けれど、あなたの中にいる彼は、あの頃よりずっと楽しそうだ。
瞬間的にギロロの中を、まるで一通り螺旋状に探った「それ」は、不思議な感触を伴って四散する。
ほんの瞬きする程の時間が、まるで永遠のように感じられた一瞬だった。
「それ」が通過する瞬間、ギロロの中に火花のように散ったのは、見知らぬ誰かの記憶。
断片は脳裏に着床すると同時に意味を持ち、ギロロの中で主張を始める。
その中にひときわ鮮明に、ひときわ大きく印象づいたのは、黄色い子供の姿。
「クルル……!?」
すれ違い様にギロロの記憶のクルルは、まるで巻き込むように言葉の主の物となった。
―――――ああ、彼は今、満たされているのだな。
言葉の主『オルル』。
ギロロの中へ流れ込んだ記憶の中の幼いクルルの姿は、どこまでも研ぎ澄まされていた。
もしこの頃に出会いがあったなら、相手が子供であるという自制が効いたかどうか。
当然ギロロ自身も年若く、その分沸点も低いに違いない。
皮膚に逆刃を当てられるような、殺伐とした感触。
それが幼いクルルの内面に触れた印象だった。
歪んだ子供を周囲にわかりやすくアピールしながら、決して中味は濁らず染まらない、ひんやりと尖鋭的な傍観者として彼は佇んでいた。
「『オルル』…… お前は一体何者だ」
そう問うものの、ギロロの中には既に全ての情報が提示されている。
オルルの出生、少年時代、家族、そしてケロン軍への引き抜き、尻尾付のクルルとの出会い、そして別離。
「お前は…… 一体どこにいる? お前は…… 生きているのか?」
―――――生きているとも言えるし、死んだとも言える。
―――――俺の身体はトリニティの爆発と共に燃え尽きた。
―――――遺されたのは、俺の精神とこの艇とメモリーボール、そして呪いだ。
呪い。
不吉な言葉はそのままストレートにギロロの中に残る。
しかしオルルの言葉に陰湿さはない。
一瞬の間に流れ込み、垣間見た半生の悲壮とはまるで無縁な、あっけらかんとした宣言がそこにあった。
精神のみを遺し、この場に留まるこの男は一体何のために生き続けるのか。
―――――ギロロ。
―――――あなたはケロン人だ。それなのに「彼女」を守ろうとしている。
―――――あなたは弱い、そして強い。
―――――まるであの頃の彼だ。あなたは双子のように彼に似ている。
唐突に。
くるりと身体に巻き付いていた気配が解かれる。
軽く突き飛ばされたかのように蹌踉けた瞬間、夏美の手がギロロの腕を掴む。
「どうしたの、ギロロ」
「待て、オルル!」
「ギロロ!」
まだオルルには聞きたい事があった。
しかし、既にオルルの声は聞こえなくなっている。
初めから物音など存在しない、沈黙の部屋の中に居たようだ。
「……どうしたのよ」
「夏美、お前は何も聞かなかったのか!?」
「何もって…… 聞こえてたのは意味のわからない宇宙の言葉でしょ?」
先刻のオルルとの対話は、ほんの一瞬のうちの出来事であったらしい。
それなのに彼の紆余曲折の半生の記録は、心と身体にあまりに生々しく残された。
一体どんな仕掛けで、身体を失ったオルルがこの世に意志を遺し続けられるのか、ギロロには解らない。
しかしひとつ理解できたのは、この探査艇自体がオルルによって改造された、彼の身体そのものであるという事だった。
メモリーボールを解読する機器そのものは、それに比べれば単純な装置なのだろう。
幼いクルル、そしてオルルの対話は、自分の記憶の一部のように鮮明に思い出せる。
心の交歓、特別な友情、同情と裏切り。
澄んだ宇宙空間を行く長い旅。
何度も反芻する残された孤独な友の姿。
何故これほど感情が揺さぶられるのか解らない。
夏美の前だ、そう思い律しようとした心が敗北する。
「……ギロロ……」
―――――まるであの頃の彼だ。あなたは双子のように彼に似ている。
違う。
俺が似ているのは、奴を裏切ったオルル自身だ。
何故なら、俺は見た。
あれと同じ、奴の
―――――残された、孤独な友の、姿―――――
目頭を熱くしたものの正体は、涙だったのか。
唐突に流れ込んだ膨大な情報に、心が汚染されてしまったかの様だった。
そして、オルルの探査艇という皮膚感覚そのものが、その半身であるメモリーボールの接近をギロロに伝える。
突然沈黙した「彼」の意図がようやく読めた気がした。
「ギロロ」
夏美に頑に背を向けたまま項垂れ、ギロロはやっとの思いで言葉を絞り出す。
一刻の猶予もならなかった。
「……夏美、お前は先に地上へ戻れ。そして冬樹のいる空輸ドックをガードしろ。モードは自動操縦だ。方向指示だけで何とか動かせる筈だ」
「何言ってるの、あんたはどうするのよ」
「ここからは真剣勝負になる。お前達はできるだけこの場を離れ、遠くへ逃げろ」
「ギロロ! あたし、あんたひとり置いて逃げるなんて」
夏美は決して振り向こうとしない小さな背中に向け、声を荒げる。
「お前達がいてくれて本当に助かった。だがこれから来る『敵』は地球人であるお前達に手加減しない。……わかってくれ夏美」
オルルがギロロの身体を更に感度のよいアンテナとして使い始めた事。
更にその手足を、メモリーボールを取り戻す為のアームとして利用しようとしている事。
夏美に説明している時間はない。
「あたしは、……足手纏いなの?」
夏美の真直ぐな視線が向けられていた。
こんな時でなければ、どれ程幸福な事だろう。
―――――あなたはケロン人だ。それなのに「彼女」を守ろうとしている。
―――――あなたは弱い、そして強い。
オルルの言葉はいちいちが図星を刺し、それが尚癪に触る。
しかし、だからと言って反発する明確な理由もない。
今は大人しくオルルに使われている身である方が「出品者」との勝負にも、クルル救出のためにも好都合だ。
「……そうだ。今のお前では背を預ける事は出来ん」
夏美を拒絶する。
こうしてケロン軍人としての分を守る事以外に、今の自分に何が出来るというのだろう。
勝気な夏美は一瞬、唇を噛み、頭を振ろうとする。
しかし、ギロロの苦渋も間違いなく受け止めたであろう彼女は、すぐにそんな感傷を振り切った様だった。
顔を上げ、迷いの消えた視線を向ける。
それは、泣き笑いのような、印象的な表情だった。
「……わかった。わかったから約束して。絶対帰って来るのよ。でないと許さないから」
まるで幼い弟に対するような言い方だと思う。
言葉はおそらく、他の誰であろうと変わりなく伝えられる、彼女なりの祈りであり激励なのだろう。
手を伸ばせばすぐに届きそうな夏美という存在は、常に自分との間に等距離を保ちながら、衛星のように周回し続ける。
踏み込み、捕まえようとすれば途端に壊れてしまいそうな今の信頼を、唯一の拠り所としてしまう自分が情けなく、それでもどこかで安堵している。
まだ男として守るべき領分を死守できているという事は、何より自分にとって大きな救いなのだろう。
適材適所とはいえ、夏美との決して縮まる事のない距離を、再確認させるかのような配置を行ったクルルの意図が痛痒い。
時折ギロロは手足に糸を付けられ、笑いながら遠隔操作をされているような気になる。
しかし今、そのクルルまでもが、何をどう間違ったのか囚われの身となっていた。
その事は必要以上に自分の心を不安にさせたらしい。
夏美が躊躇いつつも身を翻して立ち去るのを見送り、ギロロは先刻オルルと対話した部屋の中央へ踏み込む。
「オルル、貴様にもう一度聞く事がある」
呼び掛けに答えるように、沈黙していた液晶パネルに再び光が入る。
「俺の中にあるのはまだ貴様の記憶の半分だ。……メモリーボールの中に、その続きがあると見ていいのだな?」
オルルがクルルという孤独な友人を振り切り、地球へ旅立つまで。
俺が知りたかったのはその後の事だ。
そう言おうとするギロロを、再びオルルの声が遮る。
―――――本来メモリーボールを再生するために必要なのは、対になる探査艇の装置だけだ。
―――――研究の盗用が横行した時代に、それを防ぐために出来上がった古色蒼然としたシステムだ。
―――――難しい事など何もない。パスとこの艇があればいい。
「一体、メモリーボールの中味とは何だ」
ドロロが発ち、クルルが動いた動機。
ケロン軍を巻き込み、一つの惑星を危機に曝した「出品者」が狙うメモリーボール。
全てはこのオルルという一人の宇宙人が導いた事だ。
ギロロは今「出品者」に捕えられているクルルを思う。
奴と引き換えにする物が無意味な物であっていい筈がない。
―――――あれは、侵略が目的のケロン人には本来用のない物だ。
「貴様、今『侵略が目的のケロン人』と言ったな?」
ギロロは自分の中にある情報を整理し、組み直す。
軍が動いたのは、オークションに出品されたメモリーボールが、オルルが作り上げた危険極まりない兵器の記録に等しいと判断されたからだ。
そして「出品者」とやらが欲するのは、オルルが開発した兵器そのものだろう。
それが「侵略目的のケロン人に用のない物」だとは到底考え難い。
「……では何だ、メモリーボールとはただの貴様の日記帳なのか? 落書き帳か? 散らしの裏か?」
地球、オークション会場、そして再び地球。
宇宙の果てから果てへ、一体今回自分達は何に振り回されたのか。
―――――俺は神ではない。愚かな『人』だ。
―――――だが碑を建て、祈る事はできる。
―――――そしてそれをぶっ壊す奴に怒る事も。
抽象的な物言いはもう沢山だ。
賢い奴というのはどうしてこう、無駄に話をややこしくする。
クルルの奴は、貴様の遺した物のために碌でもない目に遭っているというのに。
オルル、貴様は心残りに思う旧い恩人に、これ以上裏切りを重ねる気か。
ギロロは自分の中に俄に沸き上がった激しい怒りに、自分で驚く。
先刻、オルルの記憶にシンクロし、感情を揺さぶられた部分。
それは友人に裏切られ、独り残された幼いクルルの表情だった筈だ。
「……俺も、奴のあの顔を見た事がある」
あれは、あちこちで一斉に事故が起きたような、最初の夜の事だった。
恥じている場合ではない。
それどころか、言葉にして改めて言ってやりたい事は山程ある。
どうせ自分の記憶はすれ違い様にオルルの中へ吸収されてしまっているのだ。
あの傲慢で抜け目のない男が意気消沈している姿。
本来なら快哉を叫びたい筈が、涙が出る程痛々しく映るのは、一体どういう忌々しい矛盾なのか。
むしろ腹立たしいのは、それを見る事が出来るのが唯一、クルルに選ばれた自分だけだと思っていたかったからなのか。
考えれば考える程混乱し、ギロロは半ば自棄に近い調子で吐き出す。
「俺は…… あんな風に薄気味の悪い、弱気な奴を見る位なら、見下されて笑われている方がずっとマシだ」
液晶の点滅するオルルの腹の中。
ギロロは皮膚に感じるもうひとつの気配を読みながら、見えない相手と対峙する。
その頃、トリニティサイトから出来るだけ離れる事を命じられた冬樹と夏美は、東へ進路を取りながらその空にあまりに似つかわしい光の玉を発見していた。
「姉ちゃん、あそこから逃げろって言われたのは……」
「……アレが来るから、だったのね……」
砂漠地帯、ニューメキシコ州の空。
そこに、まるでよくできた合成写真のようなUFOが、今来た方角を目指して飛ぶのが見える。
彼等が居るのはトリニティサイトから東へ約100キロ。
そこは既にロズウェルに近い地点だった。