クルルの発砲は正確に、先刻掠めたギロロの左則頭部脇でもなく右側でもない、先刻ここだと示された心臓を狙っていた。
結果を見届けるまでもない。
ギロロはそのまま衝撃で倒れ、既に散らばった粉々のパネルの破片と共に床の一部となった。
クルルは握った銃を降ろさない。
その掌は小刻みに震え、指先は血の気を失っている。
腕には、間違った力が込められ痙攣を起こしているような、病的な腱が浮き上がっていた。
自分のした事、そして齎した結果に立ち尽くすようなクルルの真横へ「出品者」が並ぶ。
「御苦労だった、クルル曹長」
生温い体温を帯びた掌がクルルの肩に触れた瞬間、静電気に当たったようにその身体が震え、長く固まっていた腕がようやく力を失う。

音なき世界に再び音が戻ってきた。
クルルの手から落ちた銃は床を滑り、転がってゆく。
それを満足気に見守りながら、「出品者」は掴んだままの肩を引き、動揺に静止した身体を我に返らせる。
「……この男とは、懇意だったらしいな」
クルルの身体の左右に力なく下ろされた両腕を取り、
「……こんな男の何がそんなに君の気を引いた? 野蛮で凶暴な動物を好奇心で飼い馴らすようなものか?」
その手にメモリーボールを握らせる。
「それとも、SEXか? 確かにこういう知性にも品性にも欠ける連中には、我々のような英知ある者にはない、プリミティブな性的魅力がある」
クルルは何も言わない。
ただ渡されたそれを抱え「出品者」の掌が肩を、背中を、首筋を撫でながら下品に笑うのを聞いていた。

「だが、遊びはここまでだ。……クルル曹長、今君が手にしているそれは大切な物だ。そして、君はその中味を解読する方法を知っている」
メモリーボールは沈黙したまま、クルルの腕の中に収まっていた。
「何をしなければならないか、君は解っているな?」
そのまま一歩ずつ踏み出そうとすれば、その先にはパネルの破片が散らばり、ギロロが倒れている箇所に行き当たる。
「さあ、行くがいい。それが君の役目だ。……私は賢い君が大好きだよ」
クルルの足はゆっくりと、赤い男が守ろうとした艇の装置へと向かっている。
「……何も怖がる事はない。悲しむ事もない。寂しいならば私が君に玩具を作ってやろう……」
ギロロの赤い身体が、目的の機器の在る場所への通り道を塞いでいた。
横たわったまま、物言わぬ亡骸。
それをクルルはゆっくりと片足で蹴るように動かし、更に散らばった様々な破片を脇へ寄せる。
「出品者」はかつての情人を容赦なく足蹴にする黄色の男を、満足気に見ていた。


今、クルルはこの数日、そして数十年、そして更に何百年という数多の思いが詰まったメモリーボールを持ち、その解読装置の前に立っている。
丸くくり抜かれた台座は、ボールの曲面に完全に一致するように作られており、半身と一つになる時を、今か今かと待っている様だった。
ボールを掲げた両手が、そこを目指して下ろされようとする。
長い、あまりに長い、怨恨の輪が繋がる瞬間。
遠い遥かな三つの惑星に関わる、一人の孤独な男の遺した記録が甦る。



その瞬間、死んだように静けさに包まれていた艇の中が、俄に生命力に満ちたように動き出した。
あらゆる液晶パネルに光が灯り、エネルギーが臨界する。
数十年前に眠りについたこの場所が、その半身によって、新たな命を吹き込まれて甦った瞬間だった。

「出品者」は興奮を隠せない様子で、背を向けたクルルの傍へ小走りで近寄り、セットされたメモリーボールを見る。
黒く輝いているそれは、本体である艇と切り離されていた頃とは違い、球面に白い模様が浮き上がっている。
更にその模様に沿って内側からの発光が蒼く、奇妙な主張を見せていた。
繋がれたケーブルの先を辿れば、そこには12インチ四方のモニタがあり、ちょうどクルルが側面の電源キーを押すところであった。

 password *********

ようやく起動したそれは青の画面の中央に、白いケロン文字を浮き上がらせる。
その下には、この艇の持ち主の操作を待つように、入力箇所が点滅していた。
「……なんだ、パスワードだと? まだそんなものが要るのか、この古ぼけた記録装置は!」
期待を込めてモニタが点灯するのを待っていた「出品者」は、苛立ったようにクルルの背後からそのモニタを覗き込み、舌打ちした。
「クルル曹長、君には当然覚えがあるのだろうな? そのパスワードが」
クルルは何も言わない。
黙ったままでモニタをじっと見ている。
黄色の体色に青の画面が映り込み、その顔の一部分が四角く緑色に染まっていた。
「何故何も言わない? パスワードはどうした!」
「出品者」は苛立ちを隠せないまま、沈黙したままのクルルの肩を掴み、向き直らせる。
端から無表情なつくりの顔だった。
クルルの顔を覆うのは、顔の半分程もある度の強い眼鏡である。
唇には冷笑。そしてそこから吐き出される毒舌は、対峙する者を誰彼構わず不快にさせてきた。
クルルの機微は誰にも測れない。
例え、操る手綱を手にしたとしても。

「聞こえないのか! さっさとパスワードを入力してデータを解読しろ!」
遂に「出品者」はそれまでの紳士的な態度を変えた。
黙りこくったままの黄色の喉元を掴み、力を入れる。
「出品者」の、あからさまな本性だった。
しかし、そうされて尚クルルは動かない。
少し俯き加減の猫背を機器に向け、首を絞められながらも、平然と向き合った相手の顔を見ている。
「出品者」の顔が怒りに歪み、その白い眼球の縁に、赤い血管が浮き出るのがわかった。
苦労して手段を踏み、作り上げた傀儡が今、彼に逆らい、裏切ろうとしている。
あと少しで目的が達成されようという、この期に及んで。
足下に転がる屍体となった男を、せめてもう数刻生かしておくべきだった。
パスワード解除の瞬間まで。
「出品者」の歯が憎悪に大きく軋み、ぎりぎりと音を立てた瞬間。
クルルの笑いがこのメインブリッジに響き渡る。
怒りと焦り、そして憎しみと驚きに満ちた目が、締め上げられていながら平然と笑い続ける男の顔を凝視した。
その顔は紛れもない、かつて国家的プロジェクトの中心に君臨し、辣腕を振るっていた子供の物であった。
階級こそ下であれ、常に「出品者」の居る位置を脅かし、底知れぬプレッシャーを与えてきた、通称『尻尾の少佐』。
しかし、こうして誰もいないこのメインブリッジで、丸腰の相手の首根を掴んだ自分に、何の不安材料があるというのか。
「出品者」は安堵しようとして何度も思い返す。
クルルを眠らせ、耳腔に仕込んだ不可聴音による暗示とその装置。
あれが簡単に破られていい筈がない。
しかし、クルルは笑っていた。
暗示がいつ、どんな過程で解除されたか、出品者にはわからない。
更にその唇はやはり傲慢な笑みを浮かべながら、ゆっくりと動き、言葉を吐き出す。

「……やなこった」

「出品者」の喉が笛のような音を立て、目が限界まで見開かれる。
後には再びクルルの、聞く者を不快にさせるあの笑いが響き渡った。
まるで、勝利を宣言するように。

それは、クルルがこの地球へ、そしてケロロ小隊へと帰還した瞬間であった。





―――――今日は地球時間で何日だ。

ほんの十数分前。
心の中にそんな疑問が泡の様に沸き上がって来た時、ようやく自分という存在が身体の中へ戻って来た気がした。

 俺はトラウマの先輩の手伝いをするために『I-U378星雲・NO-56星系・2番惑星』へ行った。
 そこではいわくのある品物のオークションが開かれる事になっていた。
 結局俺はオークションに参加したのか? いや、してない。
 何か別の目的があって、それが大事で…… 畜生、肝心の所が思い出せねぇ。
 じゃ、ここはどこなんだ。
 宇宙船? えらく旧式な、しかも妙な艇だ。
 ……先輩。
 そんな目で見んなよ。
 黙って出てった俺が悪いってか?
 ちゃんとあんたや隊長にわかるように、ヒントも俺にしちゃ御丁寧なのを残してやった筈だぜェ?

正面にはギロロが立っている。
あれほど会いたいと願った相手が目の前に、まるで自分を威嚇するかのように佇んでいるのを、クルルは不思議なものを見るような目線で眺めていた。
いや、ギロロを意識した事すらが、まるで夢の中の出来事のように現実感を失っていた。
長く乖離していた心は、身体の中になかなか落着こうとせず、浮遊するようにあちこちへと飛び回る。
その軌跡からは、次から次へと謎が浮上する。
……ヒント。
一体それは何のヒントなのか。

 暗号を難しくするとあんた、わかんねぇから、セキュリティレベルを下げて、その後も……
 ……って、ああ? 俺は一体何を伝言した?
 地球流に言や『brother fucker』。
 コンドームやらローターやらアレな諸々が入ってる、ベッドサイドの一番上の引き出しの通称。
 あんたしか知らねェ筈の、俺のごく私的な空間と、それを示す暗号。
 クソうるせぇ。
 ずっと羽虫が耳の中を、ぶんぶん飛び回ってるみてぇで、苛々する。
 
それは思い起こせば、自分をそれと自覚できるまでの長い間、頭の中で聞こえていた不愉快な音であった気がする。
ゆっくりとクルルは周囲の光景と、自分の居る状況を見渡し、確認する。

『俺の心臓はここだ、撃て!』
耳に響いたのは、力を伴った声だった。
そう、先刻のギロロのこの声こそが、自分を自分の中へ取り戻すきっかけとなった。
心地よい感触の懐かしい声が、浮遊し逃げようとする心を取り押さえ、強引に身体という容器へ押し込めようとする。
しかし苦痛はない。
この声を聞くために、自分は随分長い間、遥かな過程を踏んだ気がする。

 ……ああ、先輩。
 あんたの、いい声だ。

『しっかり狙え! クルル』
……ああそうだ、俺はクルルだ。
俺は約束通り二日で地球へ帰って来た。
だが、こんな風に命令されるのは好みじゃねぇ。
それに目の前には先輩がいる。
何で俺が先輩を撃つ?
何で先輩が命令する?

 やっと会えたな、先輩。
 でも、さっきから何か様子が変だぜ。
 俺の身体が、腕が
 ……あんたを抱いて、あんたを可愛がって、あんたを苛めるためにある筈の、俺の身体が

羽音。
耳元で起こる、忌わしい音。
まるでそれが契機であるかのように、クルルの身体が動き出す。

 オイ、……嘘だろ?
 ……誰だ。
 いや、誰でもねェ。
 これはとち狂った俺がやろうとしてる事だ。
 俺を。
 先輩。
 ……俺を
 ……止めてくれ。


クルルはギロロに向けて持ち上がる、銃を構えた腕を見ていた。
それはまるで自分の物とは言い難く、大きな力に動かされ、脳からの切実な筈の命令を無視し続ける。
時折痙攣が走るのは、拒否したいという意志が、辛うじてその動きを阻止しようとするからだ。
羽音、そして背後にいるもうひとりの命令者。
クルルはようやく、この場に自分が立つに至った経緯を思い出す。
あの、拘束されたままの地球への帰路。
ひとたまりもなく眠らされ、そのまま意識を失い―――――

「出品者」の意図と、その目的と、自身に施された所業を知った瞬間、クルルの中で激しい怒りが沸き上がる。
それは「出品者」に対してというよりは、物事を見過った
自分の甘さへの怒りであったかも知れない。

 クソ、俺様ともあろう者が

自分の身体をこれほど力強く感じた事はない。
脳や脊椎の意志が支配していた四肢という下僕の反乱に、クルルは歯を食いしばるようにして抵抗する。
昔、自分に殴り掛かろうとした腕が、寸前で力を失うのを見た。
あの腕の持ち主もまた、こんな風に苦悶していた。

 ……オルル。

指先が引金にかかる。
その血の気を失った震える指が、遂に抵抗する意志をねじ伏せようとした時。

―――――クルル。
―――――ようやく思い出してくれたな。
―――――俺だ。

 オルル? オルルなのか?
 生きてやがったのかよ?

唐突に聞こえた声は、艇の声をも伴ってクルルの中へと食い込んで来る。
その魂の感触は、確かに遠い日、自分を裏切り旅立った男のものだった。
甦るのは異邦人であり、支配する者とされる者という間柄であった筈の相手との、親密な友情の日々。
今よりも更に尖った切っ先を闇雲に振り回していた傲慢な自分に、見事に受けて立った唯一の存在。

 あんた、俺を出し抜きやがった。
 せっかくケロン人の俺を殴れるようにしてやったのに。
 あの時の俺はそのくらいあんたに理解されてみたかったんだぜ。

そんな数十年の思いと、長く自分を懊悩させた後悔と傷を越えて、懐かしさに心と身体を委ねる。
言ってやりたかった事、ぶつけたかった思いは山のようにあった。
しかし、今はしなければならない事が他にある。





クルルの裏切りを知った「出品者」には、再び手間をかけて洗脳を施そうという意志はないらしい。
ただその首を感情に任せて締め上げ、苦痛を与える事によって情報を得ようとしている。
それ程クルルの嘲笑と拒絶に対し、余裕なく怒っているという事だろう。
「……何をやったって、無駄だぜェ。……俺の中味を引っ掻き回しやがった奴に、何かしてやる筋合いなんかねぇからな」
「黙れ! そんな事をほざく余裕はない筈だ! 早くパスワードを吐け!」
更に指先が喉に食い込んでくる。
しかし、クルルは「出品者」の苛立ちを他所に、平然と言う。
「……いいのかい? 俺様が死んだらもう、あんたの欲しいモノは手に入らねェぜ?」
更に「出品者」の血走った目が赤くなった。
強気でされるがままになっているクルルも、視界が黒ずみつつある事に気付いている。
血流が頭の中でがんがんと鳴り響き、押さえられた喉から、もう少しで甲高い悲鳴が漏れてしまいそうだった。

「……渡す気がないならば、それでいい。……君を仮死状態にし、強引に記憶データを吸い上げるまでだ。手間はかかるが、言う気がないなら仕方がない」
畜生、そんな手に乗るか。
クルルの唇がそう吐き捨てようと開かれる。
が、再び遮ったのは「出品者」だった。
「苦しいか? しかし、私には少しも堪えんよ。同情の余地はない。……せっかく君の頭脳を買ってやろうとしたのに。……私を裏切った相応の罰は受けてもらう」
同情だと? 吐き気がするぜぇ。
俺の中味を弄くった挙げ句、俺の大事なものをド汚ねぇ手で混ぜっ返しやがって。
怒りは言葉にならない。
既に意識が遠くなりつつある。

 先輩。……俺はあんたが撃てと言うから撃ったぜ。
 こんな状況でもなんか、負ける気しねェ
 ……変な話だよな。
 俺はあんたが言う事なら、どんなに馬鹿な事でも信じられるんだ。
 もう愛ってか、命だろ、コレ―――――

「腕からか。……脚にするか? どうせ頭だけが残ればいい。……おっと、失血性のショックで死なれては困るからな。血は出ないように壊してやろう」
「出品者」の、狂気に取り憑かれたかのような言動。
しかし、この男は始めからこうだった気がする。
意識が遠くなるのを感じながら、それでも思考はどんどんクリアになってゆく。
そんなクルルの中に入ってくるのは、オルルが見せるつい先刻のギロロ自身の意識であった。





崩落したパネルの欠片が散らばる床を踏み締め、クルルに向き合うギロロの中に、怒りに震えるオルルがゆっくりと意志を重ねてくる。
自身を利用される事への不快は既にない。
今のオルルは共通の忌わしき敵を撃つために、必要な相手となっていた。
何らかの方法でクルルは暗示をかけられている。
それがどういう仕掛けになっているか、ギロロには判らない。
が、少なくとも半日と少しという短時間で行われた洗脳が、緻密なものである筈がない。
先刻クルルが耳元を示すような威嚇を行った事。
そしてこの場が意図されて静謐に保たれている事。

―――――音か。

オルルも気付いたらしい。
時折煩そうに首を振るクルルの様子に、思い当たるものを見い出したという事か。
人質としてのクルルの身体に施された仕掛けの正体が判らないうちは、物理的な手出しができずにいたギロロの中に、ひとつの確信が生まれていた。

―――――ギロロ、あなたももう我慢する必要はない。
―――――彼はじきに目覚める。彼は無意識下であなたを守ろうとしていた。

そう、だからこそ両の耳元が狙われた。
クルルの中にも、そうすればギロロが理解するという事が確信としてあったのだろう。

 本当に、……乱暴な奴だ。
 当たったら俺の頭に風穴が空く。

苦笑しながらギロロはクルルを思う。
「あんたなら、避けられるだろぉ?」
そんな言葉が空耳のように過る。
そうだ、俺が逆の立場でもそうする。
俺は背後を守る
こいつの命を預かり、そして預けてきた。

―――――……音による暗示は百年も前からの奴の常套手段だ。

 よし、了解した。

過去にクルルと奇妙な友情を交しあった異星人オルル。
そのオルルとの間に同志然とした感情が目覚めるのを、ギロロは深い感慨を持って受け止めていた。
殴り合わなければ解り合えない、そう言った不器用な男。
クルルの切実で野蛮な内面の発露を、まず身体で受け止める事から始めた自分と、どこか似ているとも思う。




「……んあ……」
ようやく出たのは、声にならない言葉だった。
息が出来ない事の苦しさや、「出品者」の手で締め上げられている屈辱にも勝って、流れ込んだギロロの内面がただ眩しかった。
クルルは長く、心のどこかでギロロという相手を諦めていた。
端から裸の自分を見せる事には慣れていない。
しかし、知らぬ間にこれほどストレートに、鏡像を見るような関係を築いていた互いが、可笑しい程に切なかった。
撃てと言われれば撃つ。
撃たれる事に躊躇などない。
こんな時でなければ、知らぬふりを続けるギロロに何度も問いつめ、本当の事を告白させただろう。

 オルル、イイ土産だぜェ。
 今までの事、全部帳消しにしてやる。

今、クルルの中にあるのはオルルの意志だけではない。
この宇宙艇全体がメモリーボールを得た事を心から喜んでいるようだった。
しかし既に限界は来ている。
クルルの意識は途切れ、深い闇の中へ沈もうとしていた。
「出品者」はようやく半身を得て、起動への条件がフルとなったこの数十年前の探査艇を動かす気らしい。
そんな事を艇が許すだろうか。
いや、そもそも艇という空間がオルルの腹であり、ここまで事細かな精神干渉が可能ならば、「出品者」相手にだけそれが出来ないのは何故なのか。
遠ざかる意識の中で、クルルはこれまでにあった事を回想する。
「出品者」に関してはひとつ、どうしても心に引っかかる箇所があった。
あの『乾きの大地』。
湿性人には身体中がひりひりと突っ張る、過酷な環境の中で―――――


しかし、回想途中でクルルの身体からは完全に力が失われる。
この場で動く者は「出品者」ただひとりになった。